学生作品


【病院、その一室にて】
           
栗原 健太郎

 市で一番大きな病院。その一室に彼女は椅子に座って肩を落としていた。

「……志乃」

 背中越しにかけた声が静かに響き、彼女の身体を震わせた。

 志乃の前には一つのベッド。それに身を伏せているのは彼女のじいさんだった。

 夜も深くなり始めた頃に志乃から携帯が掛かってきた。

電話越しに話す彼女はひどく取り乱していて、
幼馴染の僕でさえ聞きとるのは困難な程だった。

平常心をまとっている志乃にとっては大変珍しく、同時に僕は嫌な予感がよぎっていた。

 そして彼女の泣きじゃくった一言で、ようやく僕の鈍い頭が理解した。

『おじいちゃんが山階段から落ちた』

 あれから一時間。

救急車で運ばれたじいさんは僕らの町から市の病院へと運ばれ、ここで静かに眠っている。

その寝顔は朝挨拶した時と同じ穏やかなのに、身体は点滴の管と呼吸補助装置で囚われて、
僕の知っているじいさんの雰囲気が微塵も感じとれなかった。

「……じいさん、大丈夫なのか?」

 志乃の隣まで歩いて、彼女の肩にそっと手を置いた。

彼女から微かに伝わってくる緊張の震え。

僕は気付かない振りをして、志乃の言葉を待った。

「……まだ、安定してないの……」

 いつもの高めのキーに強張りを含んだ声が、苦しそうに彼女の口から出た。




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